Friday, October 26, 2012

ヴェニスは意思の賜物

「海の都の物語」は塩野七生の最高傑作だと思う。 

思うところあり、数ヶ月前に本棚の奥から引きずり出し、仕事や海外出張の合間に、じっくりと再読してみた。
幸運にもヨーロッパのビジネスパートナーがベニスの陸側の都市、トレヴィソにいる関係上、ベニスには、過去10年で20回くらい行っただろうか?パリ、ボストン、デリーらと並んで、僕が観光ガイドよりも穴場を知っている街でもあるが。 

ネスカフェのコマーシャルは昔から、ベニスのサンマルコ広場だしね。一般的には風光明媚な観光地としてしか知られていない。 しかし、ここは都市国家として、ローマ帝国崩壊後の西ヨーロッパで1000年近い繁栄を誇った場所。大航海時代の16世紀まで1000年近くは、全ヨーロッパとベニスの富が等しいとまで言われた。 

この都は「人間の意志」の賜物。 

蛮族の侵入を防ぐために、何もない干潟の上に、人の力によって築かれた都。そこには「自然にできたもの」は何一つないのだ。壮麗な大伽藍から街角の石ころひとつにいたるまで、全てが意思の力によって築かれたのだ。 

銀行、複式簿記、ベンチャー投資組合、株式会社等、現在の資本主義の基盤となる仕組みは全てこの国で生まれた。 

ヨーロッパ中に宗教裁判と異端尋問の嵐が吹き荒れても、人々が自由な魂を売り飛ばす必要の無かった唯一の都。
ルターもカルビンもベニスがあったから殺されずに生き延びれた。活版印刷がビジネスとして成立したのも、文庫本が生まれたのも、ここ。
 ナポレオンに征服される18世紀まで1000年に渡って、政府転覆の動きが起きなかった。人類史上、最も完璧に近い政治システムを持っていた都。 

塩野七生の「海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年」は、そのダイナミックな歴史を、登場人物の息遣いが聞こえるほどの精妙な文章で伝えてくれる。 

もしも、日本の政治家の10%でも、この本読んでくれれば、この国は変わるのにと思えてならない。 

人が文明を創り出したのは、何らかの強い「意志」の力をもった集団が、東アフリカの他のサルたちと決別したことに始まったのだなと思う。 

今の日本の政治家のうち、何人が、、自分の人生に照らし合わせた、未来への意思を持っているのだろうか? 

(あ、ヴェネツィアはイタリア語読みね。)

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