Friday, October 26, 2012

グーテンベルグ博物館

先週のドイツ出張(本当に仕事したんかい!(爆))で、最後の日にマインツのグーテンベルグ博物館に行きました。 

生誕年は不明だが、定説では1400年とあるから15世紀を駆け抜けた、まさに天才職人だ。 

展示してある42行聖書の美しさに心打たれた事は言うまでも無い。 

今なら、コンピュータ上でフォントに種類、大きさ、配置、装飾まで、出来ないことは無い。それに比べたら、当時の活版印刷は、いかに画期的でも、その全ての印刷要素が限界だらけ。編集できる機能的な面から言ったら、現在のPC上の編集ソフトの1%にも及ばない。 

しかし、その印刷された本物を見た時、「技術やセンスは時代にそって進歩する」というのは幻想に過ぎない事が良く分かる。 

ありえない完璧なデザイン 

フォントの大きさ、詰め間隔、行間・・・全てにおいて、これ以外に考えられないほど、完璧な編集デザインの一例をそこに見る。 

実は、その後、商業としての印刷術の中心は当時、国際文化交流の一大拠点であった、ベニスに移る。サンマルコ広場を囲む博物館の2Fにある博物館の「出版物の間」でも、文庫本とイタリック体のフォントに美しさには、正直、カラバッジョやフェルメールなんかより遥かに深い感動を得る事ができる。 

ちなみに、当時の印刷術は、紙の製造、インクの調合、フォントの金属組成、印刷する機構など、まさに化学、機械工学、冶金学の最新成果を組み合わせた、総合科学技術。 
実際、かれはストラスブールで30歳~48歳まで、ごく少数の職人集団と20年近く、技術の完成に向けて秘密の日々を送っている。 

そして、48歳の時に、はじめてパトロンの投資を受けて、自身の印刷工房を始める。 

あれれ、これってまるで、ベンチャーキャピタルから投資を受けて会社を始める、ハイテク企業と同じ構図!なんか、親近感わくぞ。 

また、その後、早く印刷物を売って利益を出したいパトロンと、売り上げのお金をひたすら新しいインク、紙、機構改良に費やす職人気質のグーテンベルグとで争いが絶えなかったって(笑)これも、いまどきのハイテクベンチャーと投資家との争いと同じジャン。

なんか、博物館の年表見てて、もう他人とは思えないくらい、親近感を覚えてしまった。
 

だいたい、15世紀ヨーロッパの48歳と言ったら、もういつ死んでもおかしくない歳でしょ。それから、人の投資でベンチャー企業始めるなんて、もう、アンタは偉いよ! 

それに、65歳になって、投資家と争って、裁判に負け、印刷機材を取り上げられた時の、失望感て、どんなだったかなぁ?68歳で死ぬまでの三年間、悔しかっただろう。アンタの悔しさは他人事に思えないなぁ。 

まだまだ、やりたい事も山ほどあったでしょ? 

大体、投資家なんて短期の金儲けしか考えてなくて、この技術が世界を変えることなんて、本当はコレっぽっちも理解してないよね。 

でもねぇ、グーテンベルグさん、アンタの印刷術は、聖書を世に広め、宗教改革を起こしただけじゃないんだよ。アンタの生きていた時代には無かった「国語」という考え方が生まれ、あなたの時代には予想も付かなかった強力な「近代国家」を生んだんだよ。 

「統一した言葉を話す、近代国家」これはアンタの活版印刷が世に出なければ、100年は遅れてたな。 

技術オタクのアンタが、あそこまで精魂を傾けて改良した活版印刷が、実は「近代国家」の成立の前提となるインフラになったんですよ。本当に人々の世界観を変えたんですよ、 

どう、思ったとおりでしょ?本当は判ってたんだよね・・・ 

もう少し長生きして欲しかったなぁ。そしたら、20年くらいでアンタが思った以上の変化を見届けられたのにね。 

え、僕ですか、僕も同じ技術オタクです。人間の視覚なんて研究して、ビジネスにしたりしてます。そうそう、パトロンもいますよ。でも、どうあがいても、グーテンベルグさん、あなたの偉業にはおよばないです。 

技術オタクは、その道を信じて邁進すること。これがあなたの示してくれた道。少しでも、近づけるように頑張ります。

Originally Posted 2007年12月03日

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