火星の北極にはドライアイスの海
青く広がりし海も今は昔
深く 凍り 沈む
波の音 今は絶え
魚たちは永遠の眠りから醒めず
バルセロナからロンドンへ向かう上空。朝9時、快晴。 ビジネスクラスのシートには僕も含めて3人だけ。 スチュアーデス2人に乗客3人、 飛行機はすぐに巡航高度へ達した。
ふと窓の外をみたら、不思議な風景が眼下に広がっている。飛び慣れているはずのスチュアーデスも一緒に、 皆が子供のように窓の外を眺めてる。 別にUFOが飛んでいたわけではない。
高度10000メートルの巡航高度。どんなに晴れていても、 地表は少しは曇って見えるの。しかし、今この瞬間、眼下に広がる大地は、その端から端まで、全てが驚くほど鮮明なのだ。 地球の表面をこれほど広い範囲で、 ここまで鮮明に見たのは生まれて始めて。
手が届く!
そう思った瞬間、意識は巨大なシャボン玉の膜のように、地平線まで広がり、 飛行機は巨大な硬質ガラスの中に、一瞬で凍ったような錯覚を起こした。
神様の視点にちょっとだけ近づいたような気がした。
ふと見渡すと、平坦だった大地は「皺」として徐々に盛り上がり、 気がつくと大きな山脈へと成長を始める。ピレネー山脈だ。その茶色の皺は、さらに大理石のように、白い頂上へとグラデーションする。
大理石の大地を眺めながら、僕は行ったことの無いはずの、 火星の極地帯を連想してしまった。
100万年前まで海があり、 今はドライアイスの氷が何百メートルもなる火星の北極。 ドライアイスの下には、 さらに分厚い氷の層があるという。
100万年。それは地質学的には、ほんの一瞬。 濃密な大気と海の中、生物はかなりの所まで進化したはず。 その厚い氷の中で、 火星の魚たちは飛び跳ねたままの姿で、永遠の眠りについているに違いない。
火星の北極にはドライアイスの海
地平線に青く光る地球
僕らの子供たちがそれを見るのは、何千年、 何万年先なのだろうか?
神様の時間を少しだけ感じられた気がした。
ハレルヤ